2017 年 1 月 24 日、アパレル老舗の JUN がひとつのブランド閉鎖を発表しました。
LE JUN というブランドです。
気持ちはわかるが難しかった LE JUN
LE JUN(ル ジュン)は、日本ではじめての「ヨーロピアン・コンフォート・ブランド」。
そんなコンセプトで、東京だと二子玉川ライズに入っていました。メンズ・レディス・生活雑貨で構成。
コンセプトは上記のとおりではありますが、いまっぽい雰囲気を出しつつも価格はぐっと抑えるという、まぁ郊外 SC ではありがちといえばありがちな MD ともいえます。
こだわりはリアルの客層に響かず(たぶん)
品揃えの 90% は価格を抑えた自社製品でしたが、うち 10% 程度は高額インポートブランドを織り交ぜたりしてました。たぶんここが企画の考える差別化ポイントのひとつだったのでしょう。「本物がある」みたいな。売れてなさそうでしたが。
生活雑貨はけっこう良い品揃えだったと思います。ちょっとしたプレゼントにも喜ばれそうな商品も多かったです。売れてなさそうでしたが。
またスポーツ要素の取り込みにも力を入れている様子でした。ナイキやノースフェイスといったブランドの買付けアイテムも、必ずある程度の面積を取って陳列していました。これも売れてたのかな。
こうした差別化を図るためのこだわり商品群、担当者の気持ちは痛いほどわかります。少数だけど世界観を出すには欠かせないアイテム。ええわかります。
でも残念ですけどリアルの客層にはなかなか響かないんですよね。
残すわけにはいかないので期末には激しい値引も
こういう在庫(原価高い)も残すわけにはいかないので、期末には思い切ったオフ率で処分せざるを得なくなります。
私 LE JUN にはこの時期に何度かお世話になりました。「え!これこんな価格で売っていいの!?」という出会いもチラホラ。
その節はありがとうございました。
短期間で撤退を判断した経営陣はすばらしい
という話はさておき、このニュースを見て思わずツイートしてしまいました。
3年でスパッと判断したのはすばらしいと思います。 https://t.co/chpEMlRyN6
— 五反田ひろし (@higotanda) 2017年1月24日
なぜスパッと判断したことがすばらしいと言えるのでしょう。
現場は「やめる」と言えない
ここでいう現場は、事業部長クラス以下としましょうか。要は事業に直接関わっているみなさん。
ほんと、現場は「もう一声!」「もういっちょう!」「まだまだ!」としか言えないからね。こういうのは経営がスパッと判断してあげないと。
— 五反田ひろし (@higotanda) 2017年1月24日
一般的に「現場」はネガティブな発言をしづらいです。
たとえば経営陣が取ってきた海外ブランドがあるとします。ある事業部が担当として運営することになりました。
そしてローンチから2年が経過。鳴かず飛ばずならまだいいですが、落下寸前の低空飛行が続いています。
ネガティブなことを言えない担当者
事業部長は担当者に問います。
「なぜ売上が伸びないんだろう?」
すると部下はまっさきに分析と対策を述べます。
「こういう状態だけど、ここは伸びしろがあるのでこういう手を打ちます」
事業部長はそれを聞いて「手を打てば伸びるか」と思います。しかし結局この後も、こうしたやり取りは毎週毎月同じように繰り返されることになります。
ネガティブなことを言えない事業部長
また経営陣は事業部長に問います。
「このブランドどうなってるの?責任者としてどう思うの?」
すると事業部長は部下の分析と対策を取りまとめて述べます。
「現状は厳しいですが、ここは明確な伸びしろがあり課題でもあるので、こういう手を打ってこの数字まで伸ばします」
経営陣はそれを聞いて「事業部長がそう言い切るならやろう」と思います。しかし結局はこの後も、毎月同じやり取りが続いていきます。
やる気がないと思われたくない
一方で年や立場の近い同僚の間では、「まじやばい」「そもそも売れるわけないでしょ」とネガティブ意見だらけ。事業部長も部下の手前表立っては言いませんが、ほかの事業部長との飲み会では「もうやだーなんで俺の事業部なんだよー」と弱音吐きまくり。
そう、現場はすでに戦意喪失しているのです。なのに言えない。
なぜならネガティブ発言 = やる気がないと見なされ、会社の中での自分の立場・評価が悪くなると思うからです。
分析も曇る
またデータも正しく読み取ることができなくなります。ネガティブなデータは無理矢理「クリアすべき課題」としてポジティブに変換され、小さなポジティブな要素は必要以上に過大にプレゼンされます。
結果どうなるかというと、『課題さえクリアすれば成長ポテンシャルの大きいブランド』となります。
あれ?『致命的な問題山積でお先真っ暗ブランド』なのにね。
始まりと終わりを決めるのは経営者の仕事
本来であれば上記のような半隠蔽コメントが出てこない、風通しの良い組織であることが理想です。でも実際問題それは厳しいです。
やっぱり責任を背負ってる担当者は、ポジティブ発言をしちゃうんですよ。良くも悪くも。「やります!」「やらせてください!」と。思い入れだって大きいですし。
だからこそ、経営者が冷静かつシビアに判断「してあげる」必要があります。今回の例でいえばブランド撤退です。
現場はリスクを伴う判断はできない
その判断を受け、現場ではさまざまな思いが交錯すると思います。ホッとする人間もいれば、涙を流して悔しがる人間もいることでしょう。中には辞める人間も出てくるかもしれません。
取引先や仕入先に対しても大きな影響が出る場合があります。責任取れ!とか取引停止!とか言われることもあります。
残った在庫の処分コスト、退店コスト、なにかとお金も出ていきます。
そう、事業って始めるときよりも、止めるときのほうがすごーく大変なんです。
そうした大きなリスクを受け止める覚悟を持って判断することは、現場はやっぱり無理なんです。100% 経営者の仕事です。
撤退できる = 健全運営できていると捉えたほうがいい
として現状維持の判断をするか。それとも
現場はああ言ってるけど数字を見る限り可能性は低い。撤退前提で各種リスクを洗い出し、来月判断しよう。
と冷静にデータを見て前向きに判断するか。
難しいです。難しいですけど、だからこそ、今回 3 年という短い期間で撤退の判断を下した JUN の経営陣はすごいなーと思いました(実際はもっと前に判断しているはず)。
ということで
という意味ではJUNは健全に機能している会社なんだなぁ
— 五反田ひろし (@higotanda) 2017年1月24日
こういう発言になるのでした。パチパチ!
撤退という判断「だけ」がすごいのではありません。
今回はわかりやすく、それだけをピックアップしました。が、もちろん別の成長戦略もすでにあるはずです。マイナス要素も恐れず受け入れつつ、会社を成長させるのが良い経営者です。
言うまでもないですが、一応ね。
さぁ現在求職中、もしくは転職をお考えのアパレル業界のみなさん。JUN を受けてみようw
あとセールも激しいオフ率になっている可能性があるので、お店に行って在庫削減に貢献しよう!
では再見。
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