ここ 2 年くらいで、かつて栄華を誇っていた大手アパレルが事業縮小を余儀なくされています。事業が縮小 or 無くなる = 人員が必要なくなる = 希望退職を募る、つまりリストラという大なたが振り下ろされます。
大手というくらいですからもともとの従業員数もかなりのもの。ゆえにリストラされて野に放たれる人数もかなりのものとなります。
その中でも苦戦しているのがデザイナーに代表される専門職と聞きます。
人材市場に溢れるファッションデザイナー
アパレルブランド事業を運営するにあたり、ざっくり必要な職種は下記のとおり。生産管理や営業は複数ブランドを兼務することがありますが、ほかはだいたいブランド専任です。
企画生産 | MD | 方向感、骨組みを司る |
デザイナー | デザインに起こす | |
パタンナー | パターンを作る | |
生産管理 | 納期管理、在庫管理 | |
営業 | (広義の)営業 | 拡販する、店舗管理 |
販売 | 販売スタッフ | お客様へ販売 |
だがしかし、最近はこれが過去のものになりつつあります。
デザイナーとパタンナー。最近はこの 2 つの職種を常勤として雇用しない企業が増えてきているそうです。そのため人材市場にはこの職種の方々がかなり溢れているそうです(by 人材紹介会社)。
以後わかりやすくデザイナーに焦点を絞って進めます。
内部的な原因:つぶしが効かない
総合職は文字通りなんでもやる前提で入社しています。特別なスキルはありませんが、どこの部署に行っても、どんな職種を任せても大丈夫。
でもデザイナーのような専門職はそうも行きません。専門学校時代からその道だけを勉強してきて、入社してからも専門職以外のことには従事していません。
リストラ等の有事の際、総合職なら他の部署に回すということができます。しかし専門職はそう簡単にはいかないんですよね。
ゆえに企業側は多くの専門職を雇用することを「リスク」とみなし、積極的な雇用を控えるという現状があります。裏を返すとそれだけ先行きに明るい兆しが見えないということでしょう。
外部的な原因:デザイン丸投げが当たり前になった
上記の例だと「余裕があるならちゃんとデザイナー置きたいんだけど・・・」状態でした。しかし『最近のアパレルブランド』は組織上最初からデザイナーを置かないことが当たり前、というケースが増えてきています。そもそも不要!というスタンスです。
じゃあ誰がデザインするの?となりますが、その役目は提携している専門商社や OEM / ODM 企業が引き受けるのです。※以下まとめて OEM 企業といいます。
ざっくりイメージ
打ち合わせには 20 代後半のディレクターが登場。雑誌の切り抜きやネットのスナップを持ちだし、「こんな感じで~」「こんな雰囲気で~」と自らのイメージを伝えます。
んで OEM 会社は「ふんふん・・・それってこういうことですか?」とできるだけ咀嚼してあげ、認識のズレをなくしたうえで企画に起こしていくと。生地もパターンもまるごと引き受けますので、ブランド側は納期管理するだけ。
これはブランド側としては楽ちん。
※ひどい場合もありますが・・・
でもこの手法自体は新しくもなんともなく、10 年以上前からありました。
たとえばセレクトショップ。
外部買い付け商品だけだと薄利だ。利益率の高いオリジナルを作りたい。でもノウハウがない。どうしたらいいだろう。
そういう時に助けてくれたのが OEM 企業です。基本的に表に出ない人達ですが、彼らは内部にデザイナーもパタンナーも抱えています。
ショップ側は「こういう感じのものを作りたい」というイメージをできるだけ具体的に伝えます。そうすればあとはプロの仕事。しっかり思い通りの商品があがってくると。
ショップ側はそうやって少しずつノウハウを構築していき、次第に自社で開発できるような体勢を整えていきました。で、いまは内部でしっかり組織が作られるようになりました。
全盛期の109
こちらはヒドイ例です。
昔の 109 では、各ショップでまったく同じ商品が、別のブランドタグで展開されていることなんて珍しくありませんでした。嘘のような本当の話。
どこかのブランドで売筋が出る → 面倒なのでパクる → 生産する企業が営業で広げる → みんなパクる、そんなパターンです。
「うちのブランドはこうなんだ!」という強い発信なんて要らない。いま売れるものがあればいい。小売商店としてはある意味正しいですが、志のない事業なんてそうそう続きません。
結果として 109 ブームも廃れ、そうした「その他大勢」ブランドはいまはもう人々の記憶から失われていきました。
モノよりも雰囲気や仕組みが重要という傾向
と、昔からそういう手法はあったということなのですが、昔は
- 人手が足りない/よくわからないのでやむなく依頼する
- 面倒だから丸投げする
だいたいこの 2 つのパターンだったと記憶しています。
しかし「最近のアパレルブランド」はまた別ですね。両者の中間くらいのイメージでしょうか。戦略的に固定人員を減らし、一方で丸投げの精度を上げる方向に進んでいるように見えます。
モノづくりよりも雰囲気、売る仕組み = マーケティングに力を注いでいるのかなと。
最近の流行りの手法だけど、いいことばかりじゃない
どことは言いませんが、最近のアパレルブランドは多かれ少なかれこういう手法を取っています。
時代の流れを敏感に感じ取る力はすばらしいと思います。しかし逆に言うと、時代の流れにうまく乗り続けないと、あっという間に振り落とされるというリスクもあります。
(そうなるとオッサンやオバハンも居場所がなくなりそう・・・)
またいわゆる一般的なアパレル企業の職種で求められるスキルも身につかない可能性もあります。
ふわっと雰囲気でいけるうちはいいです。しかし年齢を重ねて次のステージへ進みたいと感じた時、同業他社では使い物にならないという可能性も大きくなります。「こんな感じ~」じゃなくて具体的になにをどう進めるんだよ!となるでしょうね。
未来永劫良い状態が続くならいいですけど。
ビジネスモデルの是非はさておき、私個人としてはこういうやり方は好きじゃないです。
参考)需給のアンバランスも発生している
なおアパレルブランドからデザイナーがいなくなり、OEM 企業がデザインを代わりに引き受けるということは、当然ですが OEM 企業でのデザイナー需要は増えているということになります。
しかしいったん OEM 企業に入ると、またブランドで活躍したいと思っても、少し不利に働くという現実があります。
そのため
- デザイナー求職者は多い。
- アパレルブランドでの募集はない。あっても競争率高い。
- OEM企業での募集は多いが人気がない。
このようなアンバランスな状態が続いています。悩ましいところですが、どっちが上とか下もないですし、良い悪いなんて後にならないとわかりません。変に時間をかけずに需要があるところで働いたほうがいいと思います。
では再見。
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