リストラ祭り(失礼)が続くアパレル業界。共通するのはかつての「大手総合アパレル」。あっちもこっちもリストラでにっちもさっちも行かない状況が続いているように見えます。
中でも 2016 年 8 月現在でホットなのは、バーバリーを擁していた三陽商会じゃないでしょうか。
わー、中計取り下げって。いよいよ待ったなしか。 https://t.co/M7sCOyOP4x
— 五反田ひろし (@higotanda) 2016年7月29日
思わずこうツイートしてしまったように、2 年前に発表した中期 5 ヶ年の事業計画を取り下げるとの発表があったのです。いやー厳しいー。
2016 年上半期はボコボコの状況
2016 年の中期計画に対する進捗と、リストラしたうえでの着地見込みはこんな塩梅。金額単位は百万円。
中期計画 | 2016 年 1 月 ~ 6 月 | 進捗率 | |
売上高 | 85,000 | 34,140 | 40% |
営業利益 | ▲2,000 | ▲5,812 | 291% |
oh…なお中期計画は下記にリンク貼っておきます。
参考▶ 中期5ヵ年経営計画(2014年~2018年)に関するお知らせ
バーバリーの後釜ブランドが大不振
もともと 2016 年度は 20 億円の営業損失を見込んでいたことからも、バーバリーを手放すダメージは見込んでいたと思います。しかし
「新規の2ブランドの売り上げが、計画値を大幅に下回ったことが大きな要因。消費者にブランドが浸透していなかった」
アパレルウェブ ※リンク先記事消滅
とあるように、バーバリーの後釜として期待を一身に集めたブランドが、爽やかにズッコケてしまっている様子です。
店頭売上不振と初期投資負担
ひとつには店頭不振によって、バーバリー時代は行わなかった期末セールを実施。計画上はほぼ 100% プロパー販売で見込んでいたとすると、想定外のセール販売で粗利益率を下げてしまった影響があるでしょう。
また期待の新ブランドに対する先行投資が大きく膨らんでしまったことも、営業損失を膨らませてしまった大きな原因であると推測します。
結果として売上ダウン!粗利益率も粗利益高もダウン!経費据え置き!営業損失アップ!という負のスパイラルに陥ってしまったのではないでしょうか。
百貨店依存体質がそもそもの問題では
でもこれ、新ブランドの責任だけとも言えないと思います。同社の売上高の 70% を占めるという、百貨店依存体質のツケなんじゃないのかな。
そもそもここ 15 年は常時前比割れの厳しい販路
まず私が認識している限り、少なくともここ 15 年は百貨店の売上というのは右肩下がりです。たまに前年比 0.5% アップという月があったとしても、その他の月は 5% ~ 10% 減が当たり前。それが 15 年続いているとすると、ピーク時の何%なの?という売上規模です。
(そのくせ高飛車。なので私は昔から百貨店嫌い。)
興味のある方は実際のデータもどうぞ。百貨店協会では様々なデータを公開しています。
三陽商会はそんな斜陽販路に売上の 70% を依存しているわけです。
ベースとなる既存ブランドも上がる理由がない
もちろん新ブランドの不振は痛いのですが、規模感としては既存ブランドの売上規模のほうが大きいはず。ですがそんな状況が続く百貨店でいくら頑張ったとしても、前年を取ることすら難しいでしょう。なぜなら旧態依然の百貨店自体に魅力がないがゆえに、新規顧客の獲得が困難になり、既存顧客に頼らざるを得ないからです。
新宿なんて見てください。ルミネの新業態が髙島屋を完全に隠しちゃいましたw もはや若い子はそこに百貨店があること自体認識しません。
でも百貨店からは離れられないというジレンマ。
どうしてもバーバリー亡き後の後釜ブランドが注目されがちで、叩きやすいと思います。でもまだ新規ブランドは化ける可能性があります。それよりも上がる見込みのない既存ブランドの闇のほうが根深いと私は思うのです。
EC が伸びてると言っても微々たるもん
今後は EC に力をいれるようですが、まだたったの 22 億程度。全体 341 億のたった 6% 程度の構成比です。
明るい話題を打ち出したい気持ちはわかりますが、あと 5 倍は売らないと全体への影響値は微々たるものでしょう。
百貨店も言いたいことはたくさんあるはずだが・・・
ところでここまで三陽商会目線で書いてきましたが、実は百貨店目線で見れば「てめー三陽商会ふざけんな」状態だと思います。
いままで確実に一定額の売上を確保できてきた超一流ブランド、バーバリーが消えてしまいました。三陽商会が「いやいや大丈夫よ」と言うから、バーバリーの場所はそのまま新ブランドに入れ替えました。ところが蓋を開けてみれば散々な結果。たまったもんじゃないでしょうね。
現場の担当者はほんと胃が痛いと思います。百貨店側も三陽商会側も。
一方既存売場については上述のとおり。既存顧客頼みの状況で前比ダウンが続きます。
結局のところお互い依存する状況は変えられず、じわじわと消耗していくような気がします。
そしてリストラへ
そしてさらにこの数字を受け、大規模なリストラが行われます。
下期は、希望退職制度の実施をはじめとする事業構造の見直しや、不採算事業の撤退(2016年上期1・下期3、2017年上期5ブランド)、EC事業の拡大などに注力する。
アパレルウェブ ※リンク先消滅
事業の撤退にも大きなコストがかかります。さらに事業をなくす=人も減らすということですから、早期希望退職にかかる損失も計上しないといけません。現時点での 2016 年度の着地予測は下記のとおり。
中期計画 | 2016 年通期 | 計画比 | |
売上高 | 85,000 | 70,000 | 82% |
営業利益 | ▲2,000 | ▲6,800 | 291% |
純損失 | ▲9,500 |
ずいぶん下期に挽回する計画なのね・・・。
うーん、たぶん上層部は「三陽商会といえばコート!秋冬は挽回や!」と言ってると思いますが・・・もっと損失膨らむんじゃないかと思います。
2017/2/14 追記
決算発表がなされました。グリーン部分が実績となります。
中期計画 | 2016 年見通し | 中期計画対比 | 2016年 着地 | 中期計画対比 | |
売上高 | 85,000 | 70,000 | 82% | 67,611 | 79% |
営業利益 | ▲2,000 | ▲6,800 | 291% | ▲8,430 | 422% |
純損失 | ▲9,500 | ▲11,366 |
残念ながら予想的中。84 億円もの営業損失を出すという、残念な結果となりました。
過去在庫の評価減を行ったことが営業損失に大きく影響を及ぼしているそうです。しかし決算報告資料を見ると、売上ダウン/売上総利益率ダウン/販管費率アップ(しかも期中で修正した精度の高いはずの計画対比で)と、本業がうまくいってなかったことがよくわかります。
2021/1/29追記
なんと4年ぶりの追記。あれからなんとか生き残っていますが、はた目から見ると完全に棺桶に片足突っ込んだ状態。
しかし現社長、かなり厳しいことを言ってます。最高!
【トップに聞く 2021】三陽商会 大江伸治社長 ラブレスの不振は「素人遊びの結果だ」
私こういう御方大好き。本当に大ナタ入れられるなら、復活・・・まではいかなくても、適正サイズで生き残れるのではないでしょうか。
こんな機会はそうないから、大変だけどがんばって
Photo credit: Better Than Bacon via Visual hunt / CC BY
と、いろいろと書いてきましたが、三陽商会のみなさんはここが踏ん張りどころ。良くも悪くもこうした展開の当事者になる機会はそうそうないので、残るつもりの人はがんばってください。
なおここで「デザイナーを外部委託にします!」とか上層部が言い出したら終わりの始まりっすよマジで。早々に見切りをつけて良しだと思います。
厳しいですが、モノづくりの矜持だけはなくさないでいただきたいものです。
では再見。
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