夜の原宿での職務質問が私を変えた

 

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私は人に声をかけられやすいタイプだ。

海外観光客に道を聞かれることも非常に多い。ほとんどの場合英語だ。聞かれれば笑顔でがんばって教えるが、乗り換えが 2 回以上絡む場合は説明難易度が上がって脇汗じっとりとなる。あと英語が通じない場合も困る。

 

若いころはもっと声掛けの機会が多かった。

夜の繁華街の裏で声をかけられることも少なくなかった。渋谷のあそこらへんとか新宿のあのへんとか。お前はそういう奴だろ?という体で外国人が流暢な日本語で話しかけてくる。買わねーよ。

クラブでもそうだった。ヒップホップ系の箱ではそんなことはなかったが、ハウス系の箱では男性に声をかけられることが妙に多かったことを記憶している。残念。

しかし最も気軽に声をかけてくるのは警察官だった。深夜に自転車に乗っていて声をかけてくるのはわかる。たしかに若い男がボロいママチャリに乗ってフラフラ走ってたら怪しいに決まっている。

ただ、昼間にふつうに歩いているだけなのに囲まれたときは心底悲しかった。昼の繁華街で少し裏に連れて行かれ、ポケットの中の物を全部出すという行為は屈辱以外のなにものでもない。温かいのも冷たいのも持っていないから。

そんなことが続き、若いころの私は警察官が嫌いだった。だがあるとき、警察官への嫌悪は自分自身への嫌悪へと変わることとなった。

back in the day

それは 20 代半ばのこと。

当時はよく同年代のショップスタッフやストリートブランドの中の人と遊んでいた。遊ぶといっても男だらけ。やることといったら飲みに行くしかない。

居酒屋でワイワイ飲み、その後クラブに行ったり誰かの家で飲み直したりし、1 ~ 2 時間だけ寝て出勤!という日も少なくはなかった。そんな日はまったく仕事にならかったが、いま思い出しても楽しかったものだ。

また居酒屋に行くのが面倒になった日は、ショップでそのまま飲むこともあった。もちろん洋服に酒やたばこの臭いをつけることはご法度。酒盛りをする場合はちゃんと裏のスタッフルームで実施していた。

 

その日もたまたま友人の 1 人が勤務するショップで飲んでいた。

ショップの閉店・レジ閉めが終わった後 21 時くらいから飲み始め、時計の針はもう深夜 0 時を回っていた。たしか 3 ~ 4 人のメンバーだったが、みな酩酊状態である。

ふと気がつくとたばこがない。私もないし誰もない。居酒屋ならいつでも購入できるが、洋服屋にはたばこの自動販売機などあるはずもない。

すぐさまじゃんけん大会が始まり、あえなく私が敗退。ショップの自転車を借りて夜の原宿へ飛び出した。

夜の街

自転車は明治通沿いを軽快に走る。夜風が気持ちいい。ラフォーレ原宿の向かいの和民に入り、自動販売機でラッキーストライクを購入。もちろん友人たちのぶんもだ。

しかし考えてみると深夜の原宿を自転車で走るなんてことはそうそうない。昼間には目に入らない建物、路地。いろいろなものが新鮮に感じた。

ペダルを漕ぐ脚は止まらなかった。時間にすればせいぜい 5 分か 10 分程度だっただろう。だがその少しの時間だけ、自分が夜の原宿の王様になったような気分だった。

とはいえ浸ってもいられない。スタッフルームで帰りを待つ友人たちがいる。しょうがないそろそろ戻ろうと、街灯のない道を U ターンした瞬間、奴らはやってきた。

パトカー

街灯のない道で見るパトカーのサイレンには、あまり良い思い出がない(理由はいつかの記事を見ていただきたい)。

パトカーは私の行く手を明確に阻むようにやや斜めになって停車した。中から出てくるのは当然警察官だ。また不毛な職務質問が始まるのか・・・夜の原宿の王様も落ちたものだ。

誤解なきように書いておくが、私は警察という存在自体は嫌いではない。嫌いなのは職務質問をする警察官の態度である。皆まで言わぬがあんな態度では協力する気も失せるというもの。

とはいえ一介の警察官にそんな文句を言っても無駄である。無駄どころか無用に時間をかけられてしまう可能性もある。本当にうざい。

聞かれたことには簡潔に正直に答えること。余計なことは言わないこと。これが職務質問を最短で終わらせるコツだ。

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特にこちらにやましいことがないなら、質問自体は 2 ~ 3 分で終わる。通常こんな時間に自転車に乗っていると、盗難車の疑いをかけられ防犯登録番号の照会をかけられるのだが、不思議とこの日はそれはなかった。

質問が終わると持ち物検査だ。ついさっき購入したたばこはもちろん、財布や携帯、ポケットの中のものまですべてパトカーのボンネットに出すよう指示される。

もちろん見られて困るような持ち物などない。私は左の前ポケットに左手を突っ込み、中にあるものを一握りにしてボンネットの上に出した。この時点での私の認識では、左手の中にあるものは家の鍵とフリスクだけのはずだった。

だがボンネットの上に置かれ、警察官の持つ懐中電灯に照らされたものの中に、まったく記憶にないものが存在していた。

コンドーム

これ。コンドーム。

超恥ずかしい。

 

もちろん違法なものではないので、堂々としていればいい。だが若い私にはそんな余裕などない。

「使いもしないものを後生大事に・・・ククク」

「穴でもあけてやろうか・・・ククク」

そんな風に思われているのではないかと疑心暗鬼になる。

人間不思議なもので、自分にとって分の悪い状態になるとなぜか饒舌になるものだ。なぜこんなものが?友だちに入れられたのかな?などと一人言い訳をする始末。警察官はコンドームについては完全にスルー状態なのに。超格好悪い。

最終的には「じゃあ気をつけてね」と開放されたのだが、安堵感など一切感じなかった。唯一感じたのは敗北感。誰でもない、自分自信への敗北感であり嫌悪感でもあった。

職務質問嫌い、警察官うざいなどと言ってるが、肝心のお前はどうなんだと。コンドームごときで挙動不審になる器の小さな奴だなと。小さいのは器だけかな?知りたくもなかったそんな事実を突きつけられたのだ。

その後友人たちの待つショップへと戻ったが、その日の酒はやたら苦く、いくら飲んでも酔いが回ることはなかった。

時計

それからゆうに 10 年以上が経過した。

不思議なことに、観光客に道を聞かれること以外の声掛けは、齢 30 を超えたあたりでピタッと止まった。

もちろん夜出歩くことが億劫になり、声をかけられやすい場所に行かなくなったことが大きいだろう。なにより警察官に声をかけられなくなったということは、見た目から怪しさが払拭されたということだ。喜ばしいことには違いない。

これからも道案内程度ならどんどん声をかけていただきたいものだ。

 

なお余談ではあるが、この敗北をきっかけに私も変わった。

初対面の名刺交換時にポケットから名刺入れを取り出した際、なぜかコンドームが落ちてきたことがあった。しかし私は眉ひとつ動かさずゆっくりと拾い、再びポケットにそれをしまった。

それくらい器の大きい人間になったのだ。いや自分を変えたのだ。コンドームくらいなんだと。ちくしょう最悪だ。

 

・・・では再見。

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