- 人気のモデル●●さんプロデュースブランド
- 人気の歌手●●さんをアドバイザーに迎え~
雑誌でも Web でもこうした文句を毎月のように目にします。さてこれはいったい誰得になるのかを考えてみたいと思います。さまざまな商品で考えられますが、今回は経験を踏まえてアパレルを例に。
●●さん目線:自分の世界観を表現できる。作りたいものを作れる。楽しい。ライバルに差をつけることができる。
アパレル目線:ネームバリューが手に入る。業界にないフレッシュな視点を得ることができる。
消費者目線:あこがれの●●さんの世界観が体験できる。商品が手に入る。●●さんのようになれる。
みんなにメリットがありますね。すばらしい。すぐにやりましょう!
・・・ただし現実はそう甘くはないのです。
有名人プロデュースブランドは滅多に誰も幸せになれない
photo credit: J. Star via photopin cc
まずはアパレルのだいたいの流れを。
- 企画会議
- デザイン、素材、パターン作成
- 1stサンプルアップ
- 2ndサンプルアップ
- 展示会開催
- 生産、販売
かなりざっくりしてますがこんな感じ。
以下私の経験から、有名人プロデュースブランドなんて 90% はろくなもんじゃねえというお話をしていきます。※あくまでも架空のお話ですよ。
0:まずは前提→有名人だからといって過度な期待は禁物
人気モデルやスタイリスト、芸能人(以下有名人で統一)がプロデュースするブランドは数多あります。しかし「五反田ひろしプロデュース!」だからといって、私がすべてをコントロールしていると思ったら大間違いなのです。
まずはじめに言いたいのは、有名人だからといってクリエイティブなわけじゃないということ。私も様々な方と仕事しましたが、ゼロからデザインを考えることができる人はいませんでした。
1-1:企画会議はお膳立てしてあげないと何も進まない
Photo by Financial Times photos
だから何をやるかというと、アパレル側で昔の写真集やイラスト、古着のサンプル、他社のサンプルなどを集めます。集めるだけではなく、企画構成までもある程度組んでおく場合もあります。
なぜそんなことをするのかと言うと、こうでもしないと全ッ然進まないから。「あ~そう来ましたか」「その視点は新鮮だ」とか適当に言いながら、有名人のご機嫌を取りつつ話を進めていきます。
面倒ですがこういう叩き台がないと、100%どうでもいい話で終わります。
んでここで有名人が何をするのか。これら叩き台(あるいは自分が持ってきた雑誌の切り抜きとか)を見て「こんな感じのが欲しい」「ここを少し変えたい」というリクエストを出します。ゼロからデザインは皆無。
またここで注意しなければならないこと。それは有名人は別に洋服のプロではないので、絵型や素材から実際の商品をイメージすることはできないということです。
デザイナーやパタンなーはプロですから「このデザインにこの素材はないわー」ということがすぐに分かりますが、有名人は「いや、この素材は譲れない」とか言い出します。なんとか言いくるめることができればいいですが、実際にサンプルを作って自分の目でどれだけひどいか見てもらうということもあります。
1-2:アパレル側の責任者には強いハートが求められる
また上記が一度のミーティングで終わればいいのですが、まず終わりません。「残りはまた次回」として終わったはいいが、全然アポが取れずに月日だけが過ぎていくということも。ああ怖い。
もはや待っていても進まないので、アパレル側が見切り発車で進行することもしばしば。そして後から「私それOK出した覚えないんですけど」なんて怒られてみたり。ああ面倒くさい。
結局重要なのはコントロールを行うアパレル側の責任者。どこかのタイミングで「えい!」と切って、すべてを進行させていかないといけません。
彼はこの後も彼は有名人さんからの叱責を一手に引き受ける役回りとなりますので、強いハートが求められますww
何はともあれ、まずはここで第一段階は終了。しばらく芸能人と顔を合わせなくてもいい、平穏な期間が過ぎていきます。
2~3:サンプルアップしたはいいが、不満ブーブー
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そして次はサンプルが上がってきて第二段階へ入ります。
自分が携わった企画が実物になって上がってくるのは、やっぱり誰だって嬉しいもの。彼女も最初はウキウキです。
しかし一点一点見ていくと、だんだんと様子が変わっていきます。「これ言ったのと違うんですけど」「なんで勝手に素材変えたんですか?」「なんかイメージとちが~う」・・・。
もちろん理由はあるんです。使いたい素材が完売していたので、似寄りの別素材にしていいか何度も確認メールしたのに返事が無かったとか、だいたいそんな感じ。言えませんけど。
んでブーブー言われながらもチェックは終わり、メーカーへ修正指示を出して2ndサンプル作成へ。
4:さすがに 2nd サンプルだし・・・と安心したらいかん
さすがに 2 回目なので、ここではあまり修正は無い・・・という考えは甘く、この段階でどんでん返しの希望が出てくることは多々あります。
現場スタッフのモチベーションはここで最低レベルへと落ち込みますw こんな仕事、誰のためにやっているんだろうと思いにふけることもしばしば。
とはいえ仕事。たくさん泣いて怒りつつ、何とか展示会へと突入です。
5:華の展示会!あら?あなたヒマなんですか?
展示会には取引先だけではなく、メディアや雑誌のプレス、スタイリスト、業界のお友達など様々な人が訪れる、ブランドにとっては華の舞台。
しかし不思議なことに、今まであれだけ連絡が取れなかった有名人さんも、なぜかこの時だけは朝から晩までいてくれます。ただし初日のみの場合も多く、あとはお友達と一緒に来てそのまま帰って行ったりとか。
実はヒマか?というのは思っておくだけにしましょう。
6:やっと販売。だが売れ行きには興味が無い。
そんなこんなで展示会が終わったら、生産数を決めて生産依頼を出し、数か月後には量産品がアップ→店頭で販売という流れになります。
ちなみに有名人さんは、店頭で売れようが売れまいが興味ありません。翌年の打ち合わせで「これまたやりたい」と言い出し、全然売れなかった旨を伝えたとしても「何で分かってくれないんだろ~感覚分かんないのかな~」とお客様のせいにする始末。
そして伝説へ
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こんな状況で継続的にブランド運営していけるとは思えませんよね。
最初こそ鳴り物入りで華やかにデビューしたものの、誰にも思い出してもらえない存在になり、数シーズンの後に人知れずこのブランドは終了となりましたとさ。
有名人のプロフィールからも削除される黒歴史となりますw
ビジネスだしね、全然甘い世界じゃないよ
いまメディアで見えている有名人ブランドなんて、氷山の一角に過ぎません。見えないところではその何倍もの、こうしたブランドとは言えないようなブランドが出ては消え、出ては消えを繰り返し続けています。
今回の記事では分かりやすく「有名人」としていますが、歌手でもありスタイリストでもありモデルでもあり得ることは上述のとおり。
これだけ見ると何も良いこと無いように見えますが、これはあくまでもアパレル従業員目線の話。消費者目線で見れば、自分のあこがれの有名人が洋服を出してくれていることだけで嬉しい事かもしれません。であるなら、どんだけダサくても少しは存在意義があるんじゃないかと思います。会社は在庫で死にますが。
プロ同士のコラボはとても緊張感があって楽しいですが、こういうコラボは本当に難しいのですよ。
以前はノリで何とかなった部分もありますが、不景気が続く昨今、もはや消費者は簡単には騙せません。歯を食いしばってまじめに頑張ってるブランドじゃないと生き残っていけないです。
注:ちゃんとやってるブランドもあるぞ
実情は存じ上げませんが、うまくやってるなぁと感心するブランドも実在します。有名人さんが協力的なのか、運営チームの実力なのか、感心しちゃいます。
EXILE絡み。マイルドヤンキーノリが上手。求められているものを分かっている感じがします。
Verval夫妻。売れるかどうか全然分かりませんが、作り手の思いを感じます。
・・・と書いてから 5 年。 2019 年現在はかなり人気のブランドに成長しましたね。
でもやっぱり筆頭はここかな。
我らが兄貴、竹原慎二パイセンプロデュース。間違いない。みんなでジャージを着て街に飛び出そう!
ところで30UPって30歳オーバー=我々がターゲットなんでしょうか。
まま、今回は長くなっちゃいましたが、これにて再見。
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